邂逅

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「くんくん……変わった血の匂い……。なんとなく、懐かしい感じがする」
 エルシアは深夜、街を徘徊することが多い。
 そもそも、夜にしかまともに外出できないため、彼女が夜の街を歩くのは普通なのだが、とりあえずの拠点を持っていても、彼女は新しい人との出会いの機会を積極的に得ようとしている。それがまだこの国に来てばかりで、自分にとって住みよい場所を見つけていないのなら、尚更というものだろう。
「ね、君って普通の人間だよね?」
「えっ……?」
 エルシアは、にっ、と微笑みかけながら道行く青年に声をかけた。
「君にならこの言葉の意味、わかるんじゃない?この世界には普通の人間と、それ以外がいる。……君は普通の人間以外の匂いを持ってるでしょ?」
「もしかして……君も妖怪?」
「よ、妖怪?ジャパニーズモンスター?うーん、まあそうなるのかな。でもまあ、君は妖怪の知り合いがいるんだ」
「うん、まあ……」
「ね、よければ会わせてくれない?君の知り合いの妖怪に興味があるの。君への興味よりも、もっとね!」
 こうして、座敷童の少女と同居する青年、悠は吸血鬼エルシアに出会ったのであった。

「悠、妾がそなたに言いたいことは百あるが、その内の一つ。もっとも強く言いたいことを先に言っておこう」
「は、はい……」
「お前は警戒心が薄すぎじゃ!妖怪と一口に言っても、人に対して有効的なものも、逆に敵対的なものも山ほどおる!なぜその判断をする前に妾のことを話し、あまつさえここまで案内したのじゃ!!」
「い、いやあ……彼女が悪い子な感じはしなかったし。桐の同類なら、会えれば嬉しいかな、とか思って」
「それじゃ、その甘さじゃ。……まったく、少し甘やかし過ぎたかのう。すっかり平和ボケしおって……」
「ねぇ、もうそれぐらいにしてあげてくれない?彼が可哀想だよ……実際、私は人間に有効的なんだし、そういう教育は追々でいいでしょ?」
「原因となったお前が言うでないわ……。まあよい、確かにここで悠を叱り続けていても、この状況が変わる訳でもないからのぅ。……とにかく、お前はエルシア、吸血鬼と言うのじゃな?」
「はい、そうでーす!しかもただの吸血鬼じゃないよ。全ての吸血鬼の始祖、真祖なんだから。で、あなたはキリ、ザシキワラシっていう種族なのね。日本の人外についても色々と調べたつもりだけど、聞いたことなかったな~」
 不用心にもエルシアを家に連れてきた悠に対し、桐はぷんぷんと怒りながらも、どことなくエルシアを懐かしそうに見ている。
「それにしても、ここまで現代に違和感なく溶け込んでいる人外の者がいるとはのう」
「それは私のセリフだよ。なんか嬉しいなぁ、年齢の近い子に会えるなんて」
「年齢の近い、のう」
 そう言われた桐は少し面白くなさそうにしている。
「い、言っておくがな、妾が1300歳ほどと名乗っているのは、自分が何となく覚えている名前や景色が、その時代のものに似ているからじゃ。つまり、覚えていないだけでそれ以前に生まれていて、お前より年上の場合もある、ということでな……!」
「あははっ、キリってば面白い。私より年下なの、気にしてるの?1000歳も超えたらどっちが年上とか関係ないって。私、1000歳以上の子どもがいっぱいいるけど、みんな普通に話してるよ?まあ、みんなはお母さんって呼んでくれてるけど」
「スケールの大きな話がぽんぽんと出てくるのう……吸血鬼とは、そんなに簡単に増やしていいものなのか……?」
「うーん、第2世代の子たちは、結構軽いノリで作っちゃったからなぁ。まず、首筋を噛むのが吸血鬼化のトリガーって気付いてなかったし。まあ、その気になったら眷属の子は消せちゃうんだけど、自分が作っておいて、増えすぎたから消しまーす!じゃあ、あんまりでしょ?だからまあ、しゃーないよねぇ。これでも何人かは自主的に消えちゃったんだよ。生きるのが辛いって」
「……それは、まあそうじゃろう。妾からすれば、人の身で不老の存在になったお前たちが、平気で今も生きていることの方が信じられないぐらいじゃ」
「うーん、それはねぇ。100歳を超えた辺りで、あんまり元人間って気がしなくなっちゃうからじゃないかな。私も、1500年前は人間だったなんて感覚、全然ないもん。人として生きた時間より、吸血鬼になってからの時間の方がずっと長いんだし」
「まあ……それもそうか」
 ちなみに、悠は人間の尺度で語れない少女たちの会話を、ほけーっと眺めている。
 ただ、ちょいちょいエルシアの胸元は盗み見てしまっていた。
「(でかいな……あれは自前のだよな……吸血鬼パワーじゃないよな……)」
「けど!キリの話も、いっぱい聞いてみたいの!ねね、妖怪なのに、人と関わっていく気持ちはどうなの?ユウ君はどう思ってるの?あとあとー……!」
「いっぺんに聞くでないわ!後、悠もさっきからデレデレし過ぎじゃからな!……まったくもう、ちょっと胸の大きい娘が来たからと気にしよって」
「えっ、そ、そんなこと全然……!」
「その反応が何よりの証拠じゃ」
 桐は呆れ、エルシアはにやにやと笑う。
「ねー、ユウ君。おっぱい使ってみる?というか、本番もしちゃう??これってキリからのネトリにならないよね?私、エッチは大好きだけど、不幸なのは好きじゃないの。だから、キリに操を立ててるのなら、遠慮するけどー……」
「み、操を立てるって……。別に俺は桐とはそういうのじゃ……」
 桐を見る悠。桐はぷいっ、と顔を背けた。
「妾と悠は家族なだけじゃ。彼女でも夫婦でもない。……別に悠がエルシアとしたいと言うのなら、止める義理も権利もないわ」
「あ、嫉妬しちゃってる。可愛いなぁ、キリ。でーもっ、なんか今しちゃうと寝覚めが悪そうだし、やっぱなしでーす!……ユウ君、勃っちゃったモノ、頑張って鎮めてね」
「勃ってないけど!?」
 なお、普通に勃起はしていた。
「キリ、怒んないで。私、キリと仲良くしたいの。後、男の子は大抵、おっぱいが好きなんだから、仕方がないことだよ」
「別に怒ってはいないし、誰も嫌いになってもおらんわ。後な、エルシアよ」
「うん?」
「妾はのう、お前のように生意気なおっぱいをした娘は、割と積極的にいじめておるのじゃ!」
「ひゃああっ!?やっ、あっ、あっ、ふぁぅうぅうんっ!?」
「っ!?」
 突然、エルシアの胸を鷲掴みにして、ぐにぐにと揉みしだき始めた桐。その姿を見た悠は、思わず前のめりになってしまう。
「なんじゃ、生娘のような声をあげよって」
「だ、だってぇっ!私、おっぱいよわっ……ふぁあんっ!?うっ、くぅううぅんっ!!」
 エルシアは背筋を反らし、ビクビクと体を震わせた。
「か、簡単にイき過ぎじゃろう!?妾の方がびっくりしたわっ……」
「女の子の手、久し振りだからっ……男の子に荒々しく揉まれるのは慣れてるけど、キリの揉み方、優しくてエッチなんだもん。そんなの、きゅんきゅんしちゃうよぉっ……」
 エルシアの瞳は潤み、もっとして、と媚びるような、嗜虐心を刺激する表情をしている。
 あまりに気まずくて、桐の方が顔を真っ赤にしてしまった。
「い、言っておくがな、妾はノーマルじゃ……娘との行為は望んでおらん……」
「私はどっちでも、いいよ?後、ノーマルって言い方は最近だと割とめんどいから、ヘテロって表現の方が……」
「別にネットに書き込んだりしないからいいじゃろう!ポリコレ棒を振りかざす輩はここにおらんわ!」
「キリの首筋、すっごく奇麗だね……。妖怪なら、噛んでも吸血鬼にならないだろうし、ちょっとだけ、いい?ちょっとだけ……ほんのさきっちょだけ、牙を食い込ませるだけだから……」
「嫌じゃ!絶対、痛いじゃろう!!」
「キリぃっ……好きだよっ…………」
「妾はきらっ……嫌いではないが、吸血もエッチもごめんじゃ!……ほとんど同じ時を生きた者として、対等に話すだけで十分じゃろう?」
「もうっ……しょうがないなぁ。大好きなキリがそう言うなら、それでいいよ」
「お前は距離感を詰めるのが速すぎじゃ……逆に距離感を測るのが苦手じゃろう、絶対」
「うっ……わ、割と痛いところを……。なんか私、すぐに他人に対してママムーブしちゃうから……だってみんな、可愛い息子や娘にしか見えないんだもん」
「それはどうかと思うぞ、妾は。母は本来、一人しかいないもの。簡単に他人の母に成り代わろうとするでないわ」
「そっかぁ……だから、キリはユウ君のお母さんじゃないんだ」
「そうじゃ。悠が求めるならば、母にもなるがな。妾は母や妻といった簡単な肩書では言い表せない、悠の“家族”なのじゃ。吸血鬼を増やせば、必然的にその“母”になるエルシアとはそこが違うのじゃろうな」
「う、うぐぐぐっ……なんか敗北感……。思えば私、奥さんとかになったことないなぁ。同時代を生きた人はとっくに死んじゃってるし」
 エルシアは悔しそうにしながらも、桐の体をぎゅっと抱き寄せる。
「な、なんじゃっ……」
「だから、キリが私の旦那様になってくれない……?」
「一応聞くが、それはスタイルから決めた配役ではないじゃろうな……?」
「ふっ、ふひゅーっ!ふひゅぅううっ!!」
「絶望的に下手な口笛を吹くな!この生意気おっぱいめ!!」
「ひぃーんっ!!」
 こうして、二人にようやく対等に話せる友人ができたのであった。

「…………申し訳ないけど、割と二人のわちゃわちゃ、使えるよな……」

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