●台本●鮮やかな色の世界

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 少し悲しいお話です
 最近、目の不自由な方が主題の作品に触れることがあったため、そこから着想を受けて製作しました

21鮮やかな色の世界.txt
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 さらさら、さらさらと緑色の草が揺れる、見渡す限り一面の草の海
 香ってくる草の匂いをあなたは不快に感じますか?
 それとも、どこか懐かしい……子供の頃を思い出すものに感じるでしょうか
 空を見上げれば、それは絵の具を垂らしたかのように奇麗な真っ青
 時々、大きな白い入道雲が流れてきて、あなたはそれを目で追いかけます
 雲の切れ間から射す太陽の光は、黄色を含んだ白い色
 あなたは知っていますか?
 日本では当たり前のように、太陽は赤色で描かれます
 あなたもきっと子供の頃に描いた太陽は、赤色の鉛筆で塗っていたはずです
 ですが、世界でも太陽を赤色とするのは少数派
 多くの国は見た目通りに黄色にしたり、オレンジ色に塗る国が多いのです
 太陽が赤いという認識は、日本の日の丸の国旗にも現れていますね
 一方、アルゼンチンやカザフスタンの国旗にも太陽は描かれていますが、黄色で塗られています
 日本では美しい黒髪を緑と呼んだり、本当は緑色の信号の進め、の色を青信号と呼んだりもします
 伝統的に独特な色の認識を持っている国であると言えるのでしょう
 しばらく草の上に寝転んでいたあなたは、喉が乾いたのでお茶を飲もうとします
 持ってきていたのは、銀色の水筒。内側は黒色のプラスチックになっています
 そこに注ぐお茶は茶色の麦茶
 しかし、黒色のコップに注げば、その色は見えなくなってしまいます
 口を付け、喉を鳴らしてお茶を飲む
 麦茶を飲むと、夏を感じると人も多いのでしょう
 一方、麦茶の香ばしさが苦手だと言う人もいるでしょうね
 あなたはお茶を飲んでからしばらく、その場に座って風を感じます
 風、空気に色は付いていません
 絵に描く場合、黒色の線として描くのでしょうか
 あるいは、草や布がなびく様を描いて、絵には描いていなくてもそこには風がある、と表現するのでしょうか
 私ならば、白い絵の具を筆に付け、空間を震わせる風を描くかもしれません
 広い草原という、非日常の世界から、いつもの建物だらけのにぎやかな街へと帰っていくあなた
 ビルや一般的な家屋というのは、灰色や黒色、それから白色。いわゆる無彩色(むさいしょく)として表現されます
 本当はあのビルの茶色は外壁なのに
 あの家の屋根はえんじ色をしているのに
 建物はまとめて、色鮮やかではない、という先入観から色のない存在として描かれがちです
 あの家の前には、小さな犬小屋があります
 赤い屋根に黄色の壁。かなり古いのか、いくらかペンキは剥げています
 そこの主は、クリーム色の毛並みをした柴犬
 どこか退屈そうにあなたの方を見ていましたが、やがて玄関扉が開き、中からオレンジ色の温かな光が漏れ出しました
 中からは飼い主が出てきて、屋内へと招き入れていました
 どうやら犬小屋は日向ぼっこのための仮の住まいだったようです
 再び、黒い扉が閉められ、あなたの視界は元の青っぽい陽の落ちた夜の色に満たされます
 早く家に帰ろう
 あなたは足早に自宅へと向かっていきます

◆少しの間(本の朗読が終わり、ヒロインと主人公の会話が始まります)

 お兄様はこのお話を聴いて、どんな景色を想像しましたか?
 とても色鮮やかで、美しい景色を想像することができたのではないでしょうか
 この本は、都会に暮らしていて、世界の色鮮やかさに気づけない人に向けたものだそうです
 絵本のような語調ではありますが、確かにどちらかと言えば大人に向けた内容かもしれませんね

●少し寂しそうに
 このお話にはいったい、どれだけの色の名前が出てきたのでしょう

◆少しの間

●少し寂しそうに
 私はたくさんの色の名前を知っています
 白、灰青(はいあお)、鈍色(にびいろ)、烏羽(からすば)、暗黒(あんこく)
 他にも細かな色のグラデーションの名前を知っていますが、鮮やかな色というものは想像も付きません

◆少しの間

●静かに嬉しそうに
 ですけどね、お兄様
 私は自分が見る世界が、無彩色(むさいしょく)。彩りのない色だけで構成されていることを、不幸だとは思いません
 だって、見える色が少ないからこそ、目に見える色をきちんと追いかけようと思えるのですから

●少し寂しそうに
 お兄様と全く同じ景色を見ることができないのは、寂しいですが……

◆少しの間

●嬉しそうに
 でもね、私は知っていますよ
 お兄様の目の色は赤銅(しゃくどう)色。赤みがかった茶色をされているのでしょう?
 そして、私も同じ目の色をしている
 自分で見ることができなくても、お兄様が私と同じ色の目で、様々な色を見て下さっている
 それだけで玲香(れいか)は嬉しくなってしまうのです

◆少しの間

●ナレーション
 妹の瞳の色は、紺青(こんじょう)色。暗い青色をしている。
 それは彼女の生まれついての色素の異常によるもので、色を認識できない視界しか持たないことの理由でもある。
 しかし、赤銅と紺青の彩度を落としてしまえば、その色はほとんど同じに見える。
 彼女は自分と兄が同じ目の色をしていると、そう信じ続けている。

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