天使たちのメリークリスマス

天使たちのメリークリスマス

「ルカ、そこの飾り取ってくれる?ほら、綿のやつ」
「………………」
「ちょっと、ルカ?聞こえてるんでしょ?」
「…………えっ、それってもしかしてわたしに言ってます?」
「他にルカって名前の人いないでしょ……というか、今この教室には私以外だとあんたとリトしかいないし」
「あ、あぁー……いえ、わたし以外に“ルカ”というニックネームの人がいて、しかもそのルカちゃんはハルちゃんにしか見えない系女子なのかと思いまして……」
「勝手に私にイマジナリーフレンドを作らないでくれる!?とにかく、ぼけーっとしてるぐらいなら手伝ってよ!」
 金色の奇麗な髪のツインテールを逆立て、顔を真っ赤にして怒っているのはハルちゃん。私、ルカのクラスの委員長で友達の女の子です。
「えぇー、イヤですよ。なんでわたしがやらなきゃならないんですか?」
「なんでって、ちょっとは協力しなさいよ。クラスメイトとして」
「でも、教室の飾り付けはクラス委員のお仕事ですよね?委員長のハルちゃんや、保健委員のリトちゃんがやるのは当然だとして、平の生徒のわたしがやる理由ってなくないですか?」
「あ、あんたはもうっ……!友達が頑張ってるんだから、手伝おうって気持ちは起こらないの!?」
「あははっ、冗談ですよ、冗談。ちゃんとお手伝いしますから許してください。はい、どうぞー」
「投げるなぁ!せっかく奇麗な白色なんだから、床に付いて汚れちゃイヤでしょ!!」
「んもーっ、ハルちゃんはうるさいですねぇ。リトちゃんは一人で黙々とやってますよ?」
「私は黙ってやるとテンション上がらなくてイヤなの!!」
 ずーっとハイテンションなハルちゃんと楽しくやり合いながら、この教室にいるもう一人の生徒……リトちゃんの方を見ました。
 リトちゃんは色素の薄い髪が特徴的な(私も薄いですけどね)物静かな子です。あまりクラスの中では目立ちませんが、私の次ぐらいに成績優秀で、とっても優しい子なので大好きな友達です。
「それにしても、リトちゃんってこういうイベントごと好きだったんですね。わーきゃー騒いだりするのは苦手な方だと思ってましたけど」
「えっと……私ね。確かにあんまり騒がしいのは好きじゃないんだけど、昔から家族に誕生日は盛大にお祝いしてもらってて……それで、クリスマスもつまりはお誕生日会でしょ?だから、私好きなの」
「なるほど……というか、ウチの学校含めて天界や楽園って基本、クリスマス当日は祝ってますよね。前に人間さんから地上だと前日が一番盛り合って盛り上がるって聞きましたけど」
「さ、盛り……!?」
「おっと…………」
 下ネタが苦手なんでしょう。リトちゃんは一瞬にして顔をぼっ、と赤くします。……あれ、でも今の一言で反応する辺り、結構彼女も……?
「はぁっ……人間はそうなんでしょうね。何かに理由付けて馬鹿騒ぎして。年寄りは酒呑んで、若者は盛って。……でもね、本来クリスマスっていうのは厳粛なものなのよ。私達天使ぐらいはその伝統を守っていかないといけないわ。だから天使学校でも12月25日はそれぞれのクラスが静かにその日を祝うの」
「静かに、ですか……結局バカやる気しかしませんけど」
 改めて、たくさんの綿飾りや輪飾り。それからリースなんかで飾られた教室を見回します。
 なんかこう「いかにも」なお祭りの雰囲気です。厳粛なお祭りになる……んですかね?
「ねぇルカ。あんたってこういうの本当に興味なさそうだけど、何か理由があるの?」
「えっ?……いやぁ、確かにわたしは基本、伝統行事とか興味ないですけど、そんな詰問調で問われてしまう理由は……」
「割と疑問なのよ。ルカって優秀な天使なのは間違いないけど、いまいち天使っぽくないのよ。信仰心とか道徳心って、天使が当たり前に持ってる物だと思ってたけど……」
「ちょいちょいちょーい!!なんでわたし、不信心者かつ、道徳心が崩壊した子みたいになってるんです!?」
「後者はともかく、前者は完璧そうじゃない。ねぇ、リト?」
「そ、そうかな……。私もあんまり、信仰とかとは違うと思うけど……」
「ですよね!!ぶっちゃけ色々と古くありません?伝統を継承して守っていくって言えば聞こえはいいですけど、それってつまりは思考停止みたいなものじゃないですか。それって、未来の新しい世代を生きるわたしたちとして、どうなのかなー、とか思うんですよね」
「そ、そこまで言ってないけど……」
「えぇっ!?」
「……なんか、あんたって変わった子よね、ルカ」
「ハルちゃんが言います?ハルちゃんも大概変わってると思うんですけど」
「私は標準的な天使らしい天使よ。真面目で伝統を大切にして、可愛くて」
「胸は平らですけどね」
「あんたのもぐわよ!?」
「わたしを平坦にさせたところで、平均を下回ったままだと思いますよー?」
「うっさい、バーカ!!」
 ハルちゃんは有り体に言って、お胸が残念です。ちなみにリトちゃんは平均からすると大きめですね。私がとにかくでっかいので!
「はい、これで終わりね。結局あんたはロクに手伝わなかったわね……」
「わたしがあれこれ勝手にやってお邪魔するよりよかったじゃないですか」
「はぁっ……そうねぇ」
 ハルちゃんは大きく溜め息をついて。それから、帰り支度を始めました。ハルちゃんが帰るのはいつも誰よりも遅くて、きちんと教室の鍵を職員室に届けるところまでしてくれています。……という話です。何分、私はそんなに遅くまで教室に残った試しがないもので。
「で、そんな不器用で非協力的なあんたが、なんで今まで残ってたのよ?別に宿題とかしてた訳じゃなさそうだし」
「いやー、それがですね……」
 そう。わたしにとっての“今日”はここからが本番です。
「この後、彼氏さんとの待ち合わせがありまして!」
「えっ?…………えぇっ!?」
「か、彼氏さん…………」
 ハルちゃんは時間差で驚き、リトちゃんは顔を真っ赤にしてしまいました。
 いやぁ……うら若き乙女たちにはちょっと、刺激が強いカミングアウトでしたかね。
「あ、あんた、付き合ってる人がいたの!?誰よ!?クラスメイト!?」
「いえ、違いますよ」
「でしょうね……あんた、同級生男子なんて同じ天使と見なしてすらいないっぽかったから……」
「そ、そこまで露骨でしたっけ?まあ、まともに取り合う価値がない程度の存在とは思ってましたが」
「そこ、否定しないんだ……」
「じゃあ、年上でしょうね。誰よ?」
「えーっ、そうですねぇ……今はナイショ、ということでいいですか?こういうのはやっぱり、相手の許可をもらわずに、というのは何か起きた時にまずいですし。後、割と秘密のお付き合いなので」
「そうなんだ……厳しい家庭の人なのかな」
 まあ、担任の先生とは想像もしないでしょうね……それ知っちゃったら、リトちゃんは失神しちゃうかもです。
「はぁっ……じゃあ、何?あんたは正に人間式のクリスマスを過ごすって?」
「えへへー、そういう感じの予定です。それで、ですね。ハルちゃんたちに手伝ってもらいたいことがありまして」
「な、何?もしかしてあれ?フラッシュなんとかってやつ?私、ちょっと興味あったんだけど……!」
「フラッシュモブのこと言ってるのかな……」
「そう、それ!」
「ハルちゃんは相変わらずミーハーですね……そんなのやりませんよ。ただ、やっぱり女の子として憧れちゃうじゃないですか『プレゼントは私です♥』っていうやつ……!そのためのラッピングをお願いしたいな、とか……!」
「…………は?」
「うわぁ…………」
 あ、あれ?お二人の視線がビンビンに痛いんですが……。
「ルカ、あんたさぁ……どっかおかしい子と思ってたけど、何?変態なの?」
「どこもおかしくありませんよー!ただ、大好きな彼氏さんに喜んでもらいたくて、ですね!」
「彼氏さん、ドSなの……?ルカちゃん、その人に騙されてない……?」
「ち、違いますって!むしろドSなのはわたし……いえ、こほん!どっちかと言うと消極的な人なんですけどね。こう、可愛くラッピングされたわたしを見て、オスの本能が高ぶって、そのままわたしというディナーを美味しくいただいちゃう、みたいな……!」
「無理、パス。そんなハレンチなことに加担したくないから」
「えぇっ!?そんなにハレンチでもないでしょう!」
「ルカちゃん……さすがに私もちょっと……」
「そんなぁ!?」
 あ、あれ?ものすごく視線が痛いです……ま、まさか、こんなつもりじゃ……。
 あ、大事なことを伝え忘れてました。
「あの、さすがのわたしも別に、裸でとか思ってませんよ?ちゃんと服は着ますから」
「あ、ああ、そうなの?そうよね……!はぁっ……私としたことが早合点しちゃったわ。そうよね、いくらルカがアレな子でも、そんな痴女みたいなことしないわよね……!」
「よかったぁ…………」
「あの……もしかしなくてもわたし、裸でそれやっちゃう人と思われてました?さすがにそれはないですよ……学校でするんですから、関係ない人に見つかったらよくて停学ってトコでしょうし」
「そうよね……まっ、ちゃんと服を着てジョーク的にやるならいいわ。協力してあげる」
「うん、じゃあ私も手伝うよ……!ルカちゃん、彼氏さんと上手くいって欲しいから……!」
「ああ、ありがとうございます……持つべきものは友達ですね……!では、待ち合わせは中庭ですので。わたしは着替えてから行くので、ちょっと待っててくださいね!」
「あっ、制服のままじゃないのね」
「可愛いサンタさんの服着たりするのかな……ルカちゃん、すごく似合いそう」
 まあ、水着なんですけどね。ちなみに言っておきますと、楽園に四季はなく、常にほどよく温かいのでどんな格好でも寒いとかそういうのはありません。

 

 

「…………急にアホらしくなったから、私降りる……」
「ええっ!?もうちょっと可愛く結んでもらえません!?」
「無理、イヤ……もう帰るから……」
「リ、リトちゃん……!」
「ルカちゃん……ごめんね…………」

 まあ、なんというか……先生はびっくりしながらも、喜んでくれました。おっきくして。