お嬢様な妹に童話を読み聞かせてもらう音声です
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■扉が開く音
●小声で
お兄様、失礼いたします
●申し訳なさそうに
こんな夜分遅くに申し訳ございません
どうしても寝る前にお兄様のお顔が見たくなってしまって……
◆少しの間
●意外そうに
えっ?お兄様も私(わたくし)の顔を見たかったと?
●嬉しそうに
そうでしたか……それは、とても嬉しいです
◆少しの間
あっ、はい。実はお兄様のご迷惑でないのであれば、この本を読ませていただき、共に楽しむ事ができれば、と……
本の読み聞かせだなんて、小さな子どもにするみたいですよね
でも、どうにも寝苦しいもので……こんな夜は幼い頃にお兄様にしていただいたように、絵本を読めば眠れると思うのです
えっと……よろしいでしょうか?
◆少しの間
●嬉しそうに
ありがとうございます……!では、お兄様のベッドに失礼しますね
■ベッドに横になる音
●嬉しそうに
うふふっ……最後にこうして同じベッドで眠ったのはいつの事でしょうか?
とっても嬉しいです
では、お読みしますね。拙い(つたない)朗読でしょうが、どうぞご容赦くださいませ
ヘンゼルとグレーテル
貧しい木こりの男が、大きな森の近くに小屋を持って、おかみさんと二人の子どもとで暮らしていました。
二人の子どもの内、男の子がヘンゼル、女の子がグレーテルといいました。
しがなく暮らして、ろくろく歯に当たる食べ物を、これまでも食べずに来たのですが、ある年、国じゅうが大ききんで、それこそ、日々のパンが口に入らなくなりました。
木こりは晩、寝床に入ったものの、この後、どうして暮らすか考えると、心配で心配で、ごろごろ寝返りばかりして、ため息混じりに、おかみさんに話しかけました。
●木こり(父親)
俺たち、これからどうなると言うんだ
可哀想に、子どもらをどうやって食わしていくか
何しろ、肝心、養ってやっている俺たち二人の食う物がない始末だ
●母親
だから、お前さん、いっそこうしようじゃないか
と、おかみさんが答えました。
●母親
明日の朝、のっけに、子どもたちを連れ出して、森の奥の奥の、木深い(こぶかい)所まで行くのだよ
そこで、たき火をしてやって、めいめい一欠(ひとかけ)ずつパンをあてがっておいて、それなり私たち、仕事の方へすっぽぬけて行って、二人はそっくり森の中に置いてくるのさ
子どもらに帰り道が見つかりっこないから、それで厄介が抜けようじゃないか
●木こり
そりゃあ、おめえ、いけねえよ
と、木こりが言いました。
●木こり
そんなこたあ、俺にはできねえよ
子どもらを森ん中へ置き去りにするなんて、どうしたって、そんな考えになれるものかな
そんなことしたら、子どもら、すぐと森のけだものがでてきて、ずたずたにひっつぁいてしまうにきまってらあな
●母親
やれやれ、お前さん、いいバカだよ
と、おかみさんは言いました。
●母親 かつえ死に(じに)……飢え死に のこと
そんなことを言っていたら、私たち四人が四人、かつえ死にに死んでしまって、後は棺桶の板を削ってもらうだけが、仕事になるよ
こうおかみさんは言って、それからも、述べつまくし立てて、否応なしに、亭主をうんと言わせてしまいました。
●木こり
どうもやはり、子どもたちが可哀想だなあ
と、亭主はまだ言っていました。
二人の子どもたちも、お腹が空いて、よく寝つけませんでしたから、継母が、おとっつぁんに向かって言っていることを、そっくり聞いていました。
妹のグレーテルは、涙を出して、しくんしくんやりながら、兄さんのヘンゼルに向かって
●グレーテル
まあどうしましょう
あたしたち、もうダメね
と、言いました。
●ヘンゼル
しッ、黙ってグレーテル
と、ヘンゼルは言いました。
●ヘンゼル
お騒ぎでない、大丈夫
僕、きっとよくやってみせるから
こう妹をなだめておいて、やがて、親たちが寝静まると、ヘンゼルはそろそろ起き出して、上着を被りました。
そして、表の戸の下だけ開けて、こっそり外へ出ました。
ちょうどお月様が、昼のように明るく照っていて、家の前に敷いてある白い小砂利が、それこそ銀貨のように、きらきらしていました。
ヘンゼルは屈んで、その砂利を上着の隠しいっぱい、詰まるだけ詰めました。
それから、そっとまた、戻って行って、グレーテルに
●ヘンゼル
いいから安心して、ゆっくりおやすみ
神様がついていてくださるよ
と、言い聞かせて、自分もまた、床に潜り込みました。
夜が明けると、まだお日様の上がらない内から、もうさっそく、おかみさんは起きて来て、二人を起こしました。
●母親
さあ、起きないか、のらくら者だよ
起きて森へ行って、焚き木を拾って来るのだよ
こう言っておかみさんは、子どもたちめいめいに、一欠ずつパンをわたして
●母親
さあ、これがお昼だよ
お昼にならない内、食べてしまうのではないぞ
もう後は何にももらえないからよ
と、言いました。
グレーテルは、パンを二つともそっくり前掛の下にしまいました。
ヘンゼルは、隠しにいっぱい小石を入れていましたからね。
そのあとで、親子四人揃って森へ出かけました。
しばらく行くと、ヘンゼルがふと立ち留まって、首を伸ばして、家の方を振り返りました。
しかも、そんなことをなんべんもなんべんもやりました。
おとっつぁんがそこで言いました。
●木こり
おい、ヘンゼル、何をそんなに立ち留まって見ているんだ
うっかりしないで、足元に気をつけろよ
●ヘンゼル
なあに、おとっつぁん
と、ヘンゼルは言いました。
●ヘンゼル
僕の見ているのはね、あれさ
ほら、あすこの屋根の上に、僕の白猫が上がっていて、あばよしているから
すると、おかみさんが
●母親 煙出し……えんとつのこと
バカ、あれがお前の子猫なもんか、ありゃあ、煙出し(けむだし)に日が当たっているんじゃないか
と、言いました。
でも、ヘンゼルは子猫なんか見ているのではありません。
本当はその間に、例の白い小砂利をせっせと隠しから出しては、道に落とし落とししていたのです。
森のまん中ごろまで来たとき、おとっつぁんは言いました。
●木こり
さあ、子どもたち、焚き付けの木を拾っておいで
みんな、寒いといけない
おとっつぁん、焚き火をしてやろうよ
● そだ……枝のこと
ヘンゼルとグレーテルとで、そだを運んで来て、そこに山と積み上げました。
そだの山に火がついて、ぱあっと高く、炎が燃え上がると、おかみさんが言いました。
●母親
さあ、子どもたち、二人は焚き火の傍であったまって、私たち森で木を切って来る間、大人しく待っているんだよ
仕事が済めば戻ってきて、一緒に連れて帰るからね
ヘンゼルとグレーテルとは、そこで、焚き火に当たっていました。
お昼になると、めいめいあてがわれた、パンの小さな欠片を出して食べました。
さて、その間も始終、木を切る斧の音がしていましたから、おとっつぁんは、すぐと近くで仕事をしていることとばかり思っていました。
でも、それは斧の音ではなくて、おとっつぁんが一本の枯れ木に、枝をいわいつけておいたのが、風でゆすられて、あっちへぶつかり、こっちへぶつかりしていたのです。
こんな風にして、二人はいつまでも大人しく待っている内、ついくたびれて、両方の目がとろんとしてきて、それなりぐっすり、寝てしまいました。
それで、やっと目が覚めてみると、もうすっかり暮れて、夜になっていました。
グレーテルは泣き出してしまいました。
●グレーテル
まあ、私たち、どうしたら森の外へ出られるでしょう
と、グレーテルは言いました。
ヘンゼルは、でもグレーテルをなだめて
●ヘンゼル
なあに、しばらくお待ち。お月様が出てくるからね
そうすればすぐと路(みち)が見つかるよ
と、言いました。
やがて、まんまるなお月様が、高々と上りました。
そこで、ヘンゼルは小さい妹の手をひいて、小砂利を落とした後を、辿り辿り行きました。
小砂利は、吹き上がって来たばかりの銀貨みたいに、ぴかぴか光って、路しるべしてくれました。
一晩中、歩き通しに歩いて、もう夜のしらしら明けに、二人はやっとおとっつぁんの家に帰って来ました。
二人が表をこつこつと叩くと、おかみさんが戸を開けて出てきました。
そして、ヘンゼルとグレーテルの立っているのを見ると
●母親
このろくでなしめら、いつまで森ン中で寝こけていたんだい
お前たち、もう家に帰るのがいやになったんだと思っていたよ
と、言いました。
おとっつぁんの方は、でも、ああして子どもたち二人っきり、置き去りにして来たものの、心配で心配でならなかったところでしたから、よく帰って来たと言って喜びました。
その後、もうほどなく、家中また八方ふさがりになりました。
子どもたちが聞いていると、夜遅く、寝ながらおっかさんが、おとっつぁんにむかって、
●母親
さあ、いよいよ何もかも食べ尽くしてしまったわ
天にも地にもパンが半きれ、それも食べてしまえば、歌もおしまいさ
こうなりゃどうしたって、子どもらを追い出す他はないわ
今度は森のもっと奥まで連れ込んで、もう、とても帰り道のわからないようにしなきゃダメさ
どうしたって、他に私たち助かりようがないからね
こんな事を言われて、亭主は胸にぐっと来ました。そして
●木こり
(そんなくらいならいっそ、てめえ、しまいに残った自分のぶりの一欠を、子どもたちに分けてやっちまうのがましだ)
● あくぞもくぞ……人の欠点を並べ立てること
と、考えました。
それでもおかみさんは、亭主の言うことをまるで耳に入れようともしません。
ただもういきりたって、あくぞもくぞ並べ立てました。
それは誰だって、いったんA(アー)といってしまえば、あとはB(ベエ)と続けなければならなくなるので、この亭主も一度おかみさんの言うままになったからは、今度も、その通りにしなければならなくなりました。
ところで、子どもたちはまだ目が開いていて、この話を残らず聞いていました。
そこで、大人たちの寝てしまうのを待ちかねて、ヘンゼルは起き上がると、外へ飛び出して、この前のように小砂利を拾いに行こうとしました。
でも今度は、おかみさんが戸に、ぴんと、錠を下ろしてしまったので、ヘンゼルは出ることができなくなりました。
ヘンゼルは、それでも、小さい妹をなだめて、
●ヘンゼル
グレーテル、お泣きでない、ね
安心してお休み
神様がきっとよくしてくださあるから
と、言い聞かせました。
あくる日は、朝っぱらからもう、おかみさんはやって来て、子どもたちを寝床から連れ出しました。
子どもたちは、めいめいパンの欠片を一つずつもらいましたが、それは先のよりも、よけい小さいものでした。
それをヘンゼルは、森へ行く道みち、隠しの中でぼろぼろに崩しました。
そして、おりおり立ち留まっては、その崩したパンくずを、地びたに落としました。
●木こり
おい、ヘンゼル、なんだって立ち留まって、きょろきょろ見ているんだな
と、おとっつぁんが言いました。
●木こり
さっさと歩かないか
●ヘンゼル
僕、僕の小鳩を、ちゃんと見ているんだよ
そら、屋根の上に止まって、僕にさよならしているんじゃないか
と、ヘンゼルは言いました。
●母親
バカ
と、おかみさんはまた言いました。
●母親
あれがなんで鳩なもんか
あれは朝日が、煙出しの上で、きらきらしているんだよ
ヘンゼルは、それでもかまわず、パンくずを道の上に落とし落としして、残らず失くしてしまいました。
おかみさんは、子どもたちを、森のもっともっと深く、生まれてまだ来たことのなかった奥まで、引っぱって行きました。
そこで今度も、またじゃんじゃん焚き火をしました。
そしておっかさんは
●母親
さあ、子どもたち、二人ともそこにじっといればいいのだよ
くたびれたら少し寝ても構わないよ
私たちは森で木を切って来て、夕方、仕事がおしまいになれば戻って来て、一緒に家に連れて帰るからね
と、いいました。
お昼になると、グレーテルが自分のパンを、ヘンゼルと二人で分けて食べました。
ヘンゼルのパンは道にまいて来てしまいましたものね。
パンを食べてしまうと、二人は眠りました。
そのうちに晩も過ぎましたが、可哀想な子どもたちの所へ、誰も来る者はありません。
二人がやっと目を開けた時には、もう真っ暗な夜になっていました。
ヘンゼルは、小さい妹を労りながら
●ヘンゼル
グレーテル、まあ待っておいでよ
お月様が出るまでね
お月様が出りゃあ、こぼしておいてパンくずも見えるし、それを探して行けば、家へ帰れるんだよ
と、言いました。
お月様が上がったので、二人は出かけました。
けれど、パンくずは、もうどこにも見当たりません。
それは、森や野を飛び回っている、何千とも知れない鳥たちが、みんなつついて持って行ってしまったのです。
それでも、ヘンゼルはグレーテルに
●ヘンゼル
なあにその内、道が見つかるよ
と、言っていましたが、やはり、見つかりませんでした。
夜中じゅう歩き通して、あくる日も朝から晩まで歩きました。
それでも、森の外に出ることができませんでした。
それになにしろ、お腹が空いてたまりませんでした。
地びたに出ていた、草莓の実を、ほんの二つ三つ口にしただけでしたものね。
それで、もうくたびれきって、どうにも足が進まなくなったので、一本の木の下にごろりとなると、そのままぐっすり寝こんでしまいました。
さてさて、ヘンゼルとグレーテルはどうなってしまうのでしょう?
●嬉しそうに
ふふっ、もう何度も読んでいて、すっかり内容を覚えているお話でしたが、改めて声を出して読んでみると不思議な感じがしますね
◆少しの間
●眠そうに
さて、まだお話は半分ぐらいですが、もう眠くなってしまいましたわ
お兄様。今夜はこのまま寝てしまってもよろしいでしょうか?
◆少しの間
●意外そうに
あら、お兄様。急にお笑いになって、どうされました?
●恥ずかしそうに
やはり、こんな歳になって一緒に寝るなんて恥ずかしいでしょうか……
◆少しの間
●意外そうに
えっ、幼い頃もこのお話を読んで怖くなって、一緒に眠った?
●昔を懐かしむように
そうでしたね……当時は頼りになるお兄様をヘンゼルに
そして、お兄様に頼り切りの私をグレーテルに投影してお話を読んでいました
なのでいつか、私もお父様やお母様に捨てられてしまうのでは、と不安でしたね
思えば、どうしてこんなに母親が冷たいのかと思いましたが、ヘンゼルとグレーテルの産みの母ではなく、継母だったのですね
でも、私たちが幼い頃は、お母様が体調を崩されていて、ほとんどメイドに育ててもらったので、境遇も似ていたのかもしれませんね
もちろん、メイドたちは本当に私たちを大切にしてくれましたが
●あくび
ふぁっ……
●恥ずかしそうに
うぅっ、はしたないですわ……
それでは、おやすみなさい。お兄様
●眠そうに
お話の続きはまたの機会に……すぅっ……
このシナリオは「青空文庫」様の以下のページのデータを元に製作しました
台本として読みやすいよう、改行を工夫したり、ひらがなを漢字に変換するなどはしていますが、内容自体の改変はございません
https://www.aozora.gr.jp/cards/001091/card42315.html
「ヘンゼルとグレーテル」
グリム兄弟
楠山正雄訳
底本:「世界おとぎ文庫(グリム篇)森の小人」小峰書店