●台本●【読み聞かせ】上品な妹の読み聞かせ『ヘンゼルとグレーテル』後編

 お嬢様な妹に童話を読み聞かせてもらう音声、後編です
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■扉が開く音

 お兄様。こんばんは
 約束通り、今夜も来てしまいました

●嬉しそうに
 なんだか私(わたくし)たち、昔に戻ったようですね……

◆少しの間

 だって、こうして絵本を手に嬉々としてお兄様の部屋にやってきて……
 読むのはお兄様ではなく、私ですが、すごく懐かしいです

●愛おしそうに
 あの頃からお兄様は私にとって理想の方で、今もそれは変わりません
 うふふっ……幼い頃には将来結婚してください、なんて約束もしましたね
 今ではそれが叶わない夢だと理解しておりますが、お兄様も私をお嫁さんにすると言ってくださって、本当に嬉しかったです

◆少しの間

 では、またベッドに失礼いたしますね

■ベッドに横になる音

●嬉しそうに
 すごく温かい……
 今でもお兄様のベッドは私にとっての特別です

 それでは、読み始めますね

 ヘンゼルとグレーテル

 ここまでのあらすじ
 あるききんの年、貧しい木こりは奥さんと二人の子どもを食べさせていくのに苦労していました
 そこで奥さんは、森の深くに子どもを置き去りにする事を提案します
 しかし、それを聞いていた子どもたちの兄の方、ヘンゼルは夜中に家から出ていき、砂利を集めておきました
 そうして妹のグレーテルに、これを使って上手くやると言って安心させてやります
 翌日、本当に二人は森の深くで置き去りにされてしまいましたが、ここに来るまでに砂利を落としながら歩いていたヘンゼルの機転により、それを辿って家に帰る事ができました
 しかしまたしばらく経ったある日、いよいよ行き詰まって二人は更に森の奥深くに置き去りにされてしまいます
 しかも、今度は夜中に家の鍵が締められていたため、砂利を集めておく事もできませんでした
 だけどヘンゼルは昼食としてもらったパンをちぎって落とす事で、ちゃんと道標を作っていました
 ところが、道標のパンは小鳥たちに食べられてしまい、帰り道はわからなくなってしまっていたのです
 それでもヘンゼルはグレーテルを元気づけながら、二日の間、歩き続けます
 しかし森を抜ける事はできません
 さあ、これから二人はどうなってしまうのでしょうか?

 こんな事で、二人おとっつぁんの小屋を出てから、もう三日目の朝になりました。
 二人はまた、とぼとぼ歩き出しました。
 けれど、行くほど森は、深くばかりなって来て、ここらで誰か助けに来てくれなかったら、二人はこれなり弱り切って、倒れる他ない所でした。
 すると、ちょうどお昼頃でした。雪のように白い奇麗な鳥が、一本の木の枝に止まって、とてもいい声で歌っていました。
 あまりいい声なので、二人はつい立ち留まって、うっとり聞いていました。
 そのうち、歌をやめて小鳥は羽ばたきをすると、二人の行く方へ、飛び立って行きました。
 二人もその鳥の行く方へついて行きました。
 すると、可愛い小屋の前に出ました。
 その小屋の屋根に、小鳥は止まりました。
 二人が小屋のすぐ傍まで行ってみますと、まあこの可愛い小屋は、パンでできていて、屋根はお菓子でふいてありました。
 おまけに、窓はぴかぴかするお砂糖でした。

●ヘンゼル
 さあ、僕たち、あすこに向かって行こう

 と、ヘンゼルが言いました。

●ヘンゼル
 結構なお昼だ
 構わない、たんとごちそうになろうよ
 僕は、屋根をひとかけかじるよ
 グレーテル、お前は窓のを食べるといいや
 ありゃあ、甘いよ

 ヘンゼルはうんと高く手を伸ばして屋根を少しかいて、どんな味がするか試してみました。
 すると、グレーテルは、窓ガラスに体をつけて、ぼりぼりかじりかけました。
 その時、お部屋の中から、奇麗な声でとがめました。

●魔女
 もりもり、がりがり、かじるぞ、かじるぞ
 私の小屋を、かじるな、誰だぞ

 子どもたちはその時

●ヘンゼルとグレーテル
 風、風、そうら(空)の子

 と、答えました。
 そして、平気で食べていました。
 ヘンゼルは屋根がとても美味しかったので、大きなやつを一枚、そっくりめくって持って来ました。
 グレーテルは、丸い窓ガラスを、そっくり外して、その前に座り込んで、ゆっくりやり始めました。
 その時、ふいと戸が開いて、化けそうに年取ったばあさんが、撞木杖(しゅもくづえ)にすがって、よちよち出て来ました。
 ヘンゼルもグレーテルも、これにはしたたか驚いたものですから、せっかく両手に抱えた物を、ぽろりと落としました。
 ばあさんはでも、頭を揺すぶり揺すぶり、こう言いました。

●魔女
 やれやれ、可愛い子どもたちや、誰に連れられてここまで来たかの
 さあさあ、入ってゆっくりお休み、何にもされやせんからの

 こう言って、ばあさんは二人の手を掴まえて、小屋の中に連れ込みました。
 中に入ると、牛乳だのお砂糖のかかった、焼きまんじゅうだの、りんごだの、くるみだの、美味しそうなごちそうが、テーブルに並ばりました。
 ごちそうの後では、可愛い奇麗なベッド二つに、白いきれがかかっていました。
 ヘンゼルとグレーテルとは、その中にごろりとなって、天国にでも来ているような気がしていました。
 このばあさんは、ほんの上辺だけ、こんなに親切らしくしてみせましたが、本当は悪い魔女で、子どもたちの来るのを知って、パンのお家なんかこしらえて、騙しておびき寄せたのです。
 ですから、子どもが一人、手の内に入ったが最後、早速殺して、煮て食べて、それがばあさんの何より嬉しいお祝い日になるという訳でした。
 魔女は、赤い目をしていて、遠目の利かないものなのですが、その代わり獣のように鼻利きで、人間が寄ってきたのをすぐと嗅ぎつけます。
 それで、ヘンゼルとグレーテルが近くへやってくると、ばあさんは早速、たちの悪い笑い方をして

●魔女
 よし、捕まえたぞ
 もう逃げようったって、逃がすものかい

 と、さも憎てらしく言いました。
 そのあくる朝もう早く、子どもたちがまだ目を覚まさない内から、ばあさんは起き出して来て、二人ともそれはもう真っ赤に膨れたほっぺたをして、すやすやといかにも可愛らしい姿で休んでいるところへ来て

●魔女
 こいつら、とんだごちそうさね

 と、つぶやきました。
 そこでばあさんは、やせがれた手でヘンゼルを掴むと、そのまま小さな犬小屋へ運んで行って、ぴっしゃり格子戸を閉め切ってしまいました。
 ですからヘンゼルが、中でいくら喚きたいだけ喚いてみせても、何の役にも立ちません。
 それからばあさんは、またグレーテルの所へ出かけて、無理に揺すぶり起こしました。
 そうして

●魔女
 この怠け者、さあ起きて水をくんで来て、兄さんになんでも美味しそうな物をこしらえてやるんだ
 外の犬小屋に入れてあるからの、せいぜい脂太り(あぶらぶとり)に太らせなきゃ
 だいぶ脂の乗ったところで、おばあさんが食べるのだからな

 と、喚きました。
 こう聞いてグレーテルは、わあっと、激しく泣き立てました。
 けれど何をしたって無駄でした。
 このたちの悪い魔女の言いなり放題、どんな事でも、グレーテルはしなければなりませんでした。
 こんな次第で、気の毒に食べられるヘンゼルには、いちばん上等なお料理がつきました。
 そのかわり、グレーテルには、ザリガニのこうらが、渡ったばかりでした。
 毎朝毎朝、ばあさんは犬小屋へ出かけて行って

●魔女
 どうだな、ヘンゼル、指を出してお見せ
 そろそろ脂が乗って来たかどうだか、見てやるから

 と、喚きました。
 すると、ヘンゼルは食べ余しの細っこい骨を、一本代わりに出しました。
 ところで、ばあさんはかすみ目しているものですから、見分けがつかず、それをヘンゼルの指だと思って、どうしてヘンゼルに脂が乗ってこないか、不思議でなりませんでした。
 さて、それから、かれこれひと月経ちましたが、相変わらずヘンゼルは痩せこけたままでした。
 それでばあさんも、とうとう痺れを切らして、もうこの上待ちきれないと思いました。

●魔女
 やいやい、グレーテル

 と、ばあさんは妹の子に向かって喚きたてました。

●魔女
 さあ、さっさと行って、水をくんで来るのだ
 ヘンゼルの小僧め、もう太っていようが、痩せていようが、何がなんだって明日こそ、あいつぶっちめて、煮て食っちまうんだからな

 やれやれ、どうしましょう。
 かわいそうに、この妹の子は、無理やり水をくまされながら、どんなに激しく泣きじゃくったことでしょう。

●グレーテル
 神様、どうぞお助けくださいまし

 と、この子は叫び声を上げました。

●グレーテル
 いっそ森の中で猛獣に食われた方がよかったわ
 それだと、かえって二人一緒に死ねたのだもの

●魔女
 やかましいぞ、このがきゃあ

 と、ばあさんは言いました。

●魔女
 泣いたって喚いたって、何にもなりゃあしないぞ

 あくる日は、朝っぱらから、グレーテルは外へ出て、水をいっぱいはった大鍋を吊るして、火をも、しつけなければなりませんでした。

●魔女
 パンから先に焼くんだ

 と、ばあさんは言いました。

●魔女
 パン焼きかまどはもう火が入っているし、練り粉もこねてあるしの

 こう言ってばあさんは、可哀想なグレーテルをパン焼きかまどの方へ、ひどく突き飛ばしました。
 かまどからは、もうちょろちょろ、炎が赤い舌を出していました。

●魔女
 中へ這い込んでみなよ

 と、魔女は言いました。

●魔女
 火がよく回っているか見るんだ
 よければそろそろパンを入れるからな

 これでもし、グレーテルが中に入れば、ばあさん、すぐとかまどのふたを閉めてしまうつもりでした。
 すると、グレーテルは中で、こんがりあぶられてしまうところでした。
 そこで、これもついでにもりもりやってしまうつもりだったのです。
 でも、グレーテルはいち早く、ばあさんの腹の中を見て取りました。
 そこで

●グレーテル
 あたし、わからないわ、どうしたらいいんだか
 中へ入るって、どういう風にするの

 と、言いました。

●魔女
 バカ、このクソがちょう

 と、ばあさんは言いました。

●魔女
 口はこんなに大きいじゃないか、目を開いてよく見ろよ
 この通り、おばあさんだってそっくり入れらあな

 こう言い言い、やっこら、這うように歩いて来て、パン焼きかまどの中に、首を突っ込みました。
 ここぞと、グレーテルはひと突き、うしろからどんと突きました。
 はずみでばあさんは、かまどの中へ転がり込みました。
 すぐ、鉄の戸をぴしんと閉めて、かんぬきをかってしまいました。

●魔女
 うおッ、うおッ

 ばあさんはとてもすごい声で吠えたけりました。
 グレーテルは構わず駆け出しました。
 こうして、罰あたりな魔女は、哀れな様に焼けただれて死にました。
 グレーテルは、まっしぐらに、ヘンゼルのいる所へ駆け出して行きました。
 そして、犬小屋の戸を開けるなり

●グレーテル
 ねえヘンゼル、あたしたち助かってよ
 魔女のばあさん死んじゃってよ

 と、叫びました。
 戸が開くと、途端にヘンゼルが、鳥がかごから飛び出したように、ぱあっと飛び出して来ました。
 まあ二人はその時、どんなに嬉しがって、首っ玉にかじりついて、ぐるぐるま回りして、そして頬擦りし合った事でしたか。
 こうなれば、もう何にも怖がることはなくなりましたから、二人は魔女の家の中に、ずんずん入って行きました。
 家中、隅から隅まで、真珠や宝石の詰まった箱だらけでした。

●ヘンゼル
 こりゃ、小砂利よりずっとましだよ

 と、ヘンゼルは言って、隠しの中に入れられるだけ、たくし込みました。
 すると、グレーテルも

●グレーテル
 あたしも、家へおみやげに持ってくわ

 と言って、前掛にいっぱいにしました。

●ヘンゼル
 さあ、ここらでそろそろ出かけようよ

 と、ヘンゼルは言いました。

●ヘンゼル
 なにしろ、魔女の森から抜け出さなくては

 それで、二、三時間歩いて行く内に、大きな川の所へ出ました。

●ヘンゼル
 これじゃあ渡れやしない

 と、ヘンゼルは言いました。

●ヘンゼル
 橋にも、いかだにも、まるで渡る物がないや

●グレーテル
 ここには、渡し舟も行かないんだわ

 と、グレーテルが言いました。

●グレーテル
 でもあすこに、白いカモが一羽泳いでいるわね
 きっと頼んだら渡してくれてよ

 そこで、グレーテルは声を上げて呼びました。

●グレーテル
 カモちゃん、カモちゃん、コガモちゃん
 グレーテルとヘンゼルが来たけれど
 橋もなければ、いかだもない
 お前の白いお背中に、乗せて渡してくださいな

 カモは早速来てくれました。
 そこで、ヘンゼルがまず乗って、小さい妹に

●ヘンゼル
 一緒にお乗り

 と言いました。

●グレーテル
 いいえ

 と、グレーテルは答えました。

●グレーテル
 そんなに乗ってはカモちゃん、とても重いでしょう
 別々に連れてってもらいますわ

 その通り、この親切な鳥はしてくれました。
 それで、二人無事に向こう岸に渡りました。
 それから、少しまた歩く内、段々、段々、森がお馴染みの景色になって来ました。
 そしてとうとう遠くの方に、おとっつぁんの小屋を見つけました。
 さあ、二人は一目散に、駆け出しました。
 ぽんとお部屋の中に飛び込んで、おとっつぁんの首根っこにかじりつきました。
 この木こりの男は、子どもたちを森の中に置き去りにして来てからというもの、ただの一時でも、笑える時がなかったのです。
 ところで、おかみさんも死んでしまっていました。
 グレーテルは、前掛を振るいました。
 すると、真珠と宝石がお部屋中、転がり出しました。
 今度はヘンゼルが、隠しに片手を突っ込んで、何度も何度も掴み出しては、そこにばらまきました。
 まずこんなことで、心配や苦労は奇麗に吹き飛んでしまいました。
 親子三人それこそ嬉しいずくめで、一緒に仲良く暮らしました。

●この部分は日本の昔話で言う「どっとはらい」に該当する定型句であり、これ自体に意味はありません。そのため、読まなくてもいいと思います
 わたくしの話もこれで市(いち)が栄えました。
 ほら、あすこに、小ねずみがちょろちょろかけていますね。
 誰でも捕まえた人はあれで、大きな毛皮のずきんを、ご自分でこしらえてご覧なさい。

 おしまい……

 改めて読んでみて、新しく気付く事も多いですね

●熱っぽく真剣に
 そういえば、お菓子の家の魔女と、二人を置き去りにさせた継母は同一視される事もありますよね
 まあ、宝石を持って帰ったとしても、あの意地悪な継母がいては幸せな生活にはならないかもしれないので
 お話の都合として処理しておかないといけないので、魔女を当てはめるのがすっきりしているんでしょうが
 ただ、その場合は継母が自作自演のような形で、ヘンゼルとグレーテルを食べようとした事になりますね
 魔女はなぜ宝石を持っていたのか、ヘンゼルに食べさせたごちそうはどこから来たのか、など疑問も多いですが……
 魔法で食べ物を出せたりしたのでしょうか?
 お菓子の家も二人をおびき出すために用意したものですし

●楽しそうに。熱っぽく語ってしまった自分に、はっと気づいたイメージです
 ふふっ、こうやって童話について真剣に考察してみるのも面白いですね

◆少しの間

●少しいたずらっぽく
 あら、今夜はお兄様が先に眠ってしまいそうですわね

●優しく
 では、一緒に眠りましょうか

◆少しの間

●優しく
 はいっ……おやすみなさい、お兄様……

このシナリオは「青空文庫」様の以下のページのデータを元に製作しました
台本として読みやすいよう、改行を工夫したり、ひらがなを漢字に変換するなどはしていますが、内容自体の改変はございません
https://www.aozora.gr.jp/cards/001091/card42315.html

「ヘンゼルとグレーテル」
グリム兄弟
楠山正雄訳

底本:「世界おとぎ文庫(グリム篇)森の小人」小峰書店