届かないからこそ

「桐。俺、彼女ができたんだ!」
 朝。悠が起き出すといつものように桐が朝ご飯の支度をしてくれている。
 そんな彼女に悠は開口一番、そんな告白をしたのだった。
「ふむ……?ようやく悠にもそんな相手ができたんじゃな。お相手はどんな娘なのじゃ?」
「い、意外と驚かないんだな……」
「年頃の男子なのじゃ、恋人の一人や二人作って当然じゃろう。……ま、自分に自信がない頃のそなたでは、いつまで経っても恋人など作れなさそうじゃったからの。そこからの進歩を思えば、大したものじゃ」
「……えっと、今日はエイプリルフールって言って、嘘をついても許される日~みたいな?」
 思いの外、しみじみと感動してくれた桐に対し、恐る恐る悠はネタバラシする。
「うむ。知っておるぞ?……ふふっ、悠がどんな嘘をつくのか楽しみにしておったが、想像よりもずっと可愛い嘘で噴き出すところじゃった」
「なんだ、気づいてたのか……」
 悠は顔を赤くする。
「別に本当でもいい、とは思ったおったがな。じゃが、悠が彼女を作るなどまだ早いじゃろう。今のそなたなら、たとえ女子に告白されても“自分には好きになってもらう資格がない”などと言い出しかねんじゃろう?」
「そ、そんなこと言うつもりはないけど……まあ、告白されたこともないけど……」
「ふふっ、たとえ今はなくとも、もしもの場合には備えておくんじゃぞ?悠好みの巨乳で可愛らしい女子が慕ってくれているやもしれん」
「なんでそこは巨乳って指定するんだよ」
「んー?どうせなら妾と違って胸の大きな子の方がいいじゃろう?妾ではどうしても、悠を満足させてやることはできんからな」
「べ、別に、桐に不満は感じてないって。むしろ、桐のお陰でちっちゃい子もいいな、とか思ったり……」
「ほほー?」
 桐は思い切りにやにやとして見せる。
「な、なんだよっ……」
「いいや。大人になったものじゃな、悠も。胸の大小で女子を評価しなくなったのは、少年を卒業した証拠じゃ」
「そ、そうなのか?というかまあ……桐だから好き、なのかもな」
「ふふっ、嬉しいことを言ってくれるのう。そんな可愛い子には後でご褒美をやらねばな」
「えっ……!?」
 期待したような声を上げる悠に、桐はにこにこと笑う。
「さて、何をするかは後のお楽しみじゃ。今日一日頑張ってきたら、癒やしてやるからの」
「よ、よしっ……!俺、頑張るよ!」
「うむ。妾は悠の頑張る姿が大好きじゃからな」
「……それにしても、もしも桐が……」
「うん?」
 悠は上を見上げ、心ここにあらずといった表情になる。
「へ、へへっ……いい、かもな……」
「な、何を考えておる?」
「いやぁっ……よくよく考えてみれば桐って、可愛いのは可愛いけど、奇麗な顔してるよな」
「ひゃうっ!?な、何をいきなり言っておるのじゃ、朝っぱらから……!いつからそんな軟派な男子になったのじゃ!」
「いやぁ……顔立ちは結構大人っぽいし、うん……似合う、かもな。細くてアンバランスなのも、中々……」
 初めは恥ずかしがっていた桐だが、まもなく悠の想像……妄想を察して不機嫌顔になる。
「さては、変な想像しとるな!?妾で勝手な想像をするのはやめるのじゃ……!」


「いや、でも巨乳の桐、これはイけるぞ!」
「勝ってにイくでない!目の前に絶世の美女がいるというのに、勝手に想像の中で魔改造するでないわ!妾は今が一番、じゃろう?」
「はぐっ!?ちょっ、ひっはるな……!」
 桐は背伸びをして、思い切り悠の頬をつねる。
「ならば認めるのじゃ!妾は今の体型が最も美しくて魅力的、と!」
「わかったわかった!桐は今が一番だよ。……小さいけど頼もしい、今の桐がさ」
「ふふん、当然じゃ。……しかし、そんな失礼な想像をされるとはのう。これは、ご褒美ではなくお仕置きが必要なようじゃ。覚悟しているんじゃぞ?とことん、妾の魅力を叩き込んでやるからな!」
「お、おうっ……!楽しみにしてるよ……!」