わたしが堕天使になった日
寝覚めがはっきりとしない朝でした。
なんとなく空気が重苦しい……楽園はいつも晴れのはずなのに。生まれて初めて、わたしは低気圧によって調子を崩す人間の気持ちを知ったのでした。
ゆるゆるとベッドから上半身だけを持ち上げて。
そうしてわたしは直感しました。
「わたし、堕天使になったんですね」
そもそも、堕天使に明確な基準がある訳ではありません。
極端な話「自分は堕天使だ!」と名乗れば、その時点でその天使は堕天使であると言えます。
なぜなら、天使は神様に使われる存在。自我こそありますが、自分から堕落したいなどと望むことはありませんし、神様に逆らえないように“出来ています”。
それなのに自分を堕天使と名乗ることができる、その時点で天使として機能不全を起こしていて。
それすなわち、堕天使であるということになるのです。
後、堕落した天使には決定的な変化が現れます。
それは、天界や楽園(以降、天界と略します。この二つには上層と下層という以外の大きな違いはないので)の空気が合わなくなるというものです。
天界の空気は非常に清浄で、胸いっぱいに吸い込むととても清々しい気持ちになれます。
ですが、この空気は“穢れ”を持った者にとっては毒も同然なのです。
だからこそ、楽園に来ることができる人間は“善人”ばかりで、無理やりに地獄に送られるはずの罪人を連れてきた場合、その人間はよくて息苦しく感じ、最悪の場合、悶え苦しむことになるでしょう。もう死んでいるので、死ぬこともできずに、ただただ苦しみ続けることに。
そして、天使が堕落するとはすなわち、穢れるということ。
まだわたしは、息苦しさは感じていません。ただ、なんとなく空気が重く感じるだけです。
ですが、たとえば激しい運動――元々、わたしは運動が得意ではありませんが――をすれば、すぐに息は上がり、荒い呼吸を繰り返して。しかし、中々息が整うことはないでしょう。なぜなら、そもそも天界の空気がもう、わたしには合わないのですから。
エッチをしても、息切ればかりで、もう先生を満足させるのは難しいかもしれません。
わたしだって、こうなることは予想していました。
先生と一緒の夜(慣用句的表現です。天界は常にお昼なので)を過ごしたあの日から。
だって、わたしは神様である先生をあんなに玩具にしていました。その時点でもう、天使としてありえないことです。
そしてもちろん、あんなにエッチなことを繰り返して……先生との逢瀬を重ねる度、元々から大きくて自慢だった胸は、更に大きくなっていきました。
それから、大きいけれど張りがあるのが自慢だったのに、今のわたしの胸は少しずつ、垂れてきているのです。
それがまず、天使としての力の衰えを示している証拠でした。
そして遂に、天界の空気が合わなくなってきた。もうあまり、わたしに時間は残されていません。
まだ完全に堕落しきる今なら、必死に善行を積めば持ち直すこともできるでしょう。
ですが、わたしが今更、そんな道を選ぶと思えますか?
わたしは先生が好きです。先生のことが大好きです。
エッチも好きです。気持ちいいのも、気持ちよくしてあげるのも、大好きです。
そしてわたしは、自分が堕落していっていることに、納得できていないところもあるのです。
なぜなら、神様たちは地上に人間が満ちることを望んでいます。
当然、人間が増えるためにはエッチ、子作りを経る必要があります。
それなのに、楽園にいる人間をケアし、その模範となるはずの天使が、みだりに性行為をすることは悪とされています。
天使も増えないといけないので、子作り自体はするんですが、エッチ=子作りぐらいの勢いで、天使同士の恋愛はびっくりするほどプラトニックラブです。婚前交渉なんてとんでもない、キスすら普通はしない勢いなんですよ?
わたしは、それが納得できません。どうして子作りを推奨しつつ、天使にはエッチの自由が与えられていないのか。そもそも、天使に性行為に対するセーフティがかけられているのか。
だから。わたしは、どうやらそのセーフティが壊れてしまった天使だから。
この気持ちを抱えて、堕天使となろうと思います。後悔はありません。
だって、きっと……。
「んっ、あっっ、ふぁぁっ!せん、せいっ……!」
わたしはどんよりとした気分の中、自分でも重たいと感じるおっぱいを持ち上げ、先端を愛撫して……もう片方の手では股間を慰め始めました。
想像するのは、先生がそうしてくれること。わたしの最愛の人が、わたしの体を楽しみ、わたしを楽しませてくれる。その夢のような時間です。
「あっ、はっ、あぁっ、んっ、ふぁぁんっ!先生、わたし、もっ……わたしと一緒にっ、せんせいっ……!!」
わたしは先生にいっぱい、汚されてしまいました。
わたしも先生をいっぱい、汚してしまいました。
なのできっと、先生にも同じ変化が現れているはずです。
堕落した神様は、悪魔、さもなくば邪神と呼ばれます。
わたしたちは別に天界に反乱を企てようとした訳でも、人間たちを悪い方向に扇動した訳でもありません。
ただ、二人でエッチを。おっぱいを楽しむことだけを繰り返していただけです。
それなのに、堕天使と邪神なんていう、かっこいい肩書を与えられてしまうのですよ?
――最高、ですよね。
とっても滑稽で、楽しい。愚かしいけど、それが心地いい。
「はっ、あっ、先生っ……!!」
わたしが思い切り乳首をつねり上げると、そこからは母乳が溢れ出しました。乳頭から滲み出し、飛び散ったミルクは四方八方に散って、ベッドシーツを汚していきます。
「ずっと一緒に、いきましょうね……」
わたしはかくして、堕天使となりました。