花弁をつまびく夜
「ふぅっ、今日はこれぐらいにしておきましょうか」
ヘッドセットを外し、座椅子を倒してそのまま横になります。
和室にゲーミング座椅子を置いて、ノートパソコンでFPSをやっている女性が、果たしてどれぐらいの数いるのでしょう、なんてことを考えながら、目を瞑ります。
まだ目にはマズルフラッシュが焼き付いているようで、耳の中で響き続けるのは銃弾が鉄板を激しく叩く音。
この国のリアルからかけ離れた光景の中にいた自分を思い出しつつ、自分なりに反省会をしたりします。
わたしは近江ヶ丘花蓮。自分でいうのもイヤミなようですが、国内でも有数の資産家の娘です。わかりやすい言葉を使うなら、お嬢様。
ですが、兄が二人いて、末っ子として生まれたわたしは家族に甘やかされて育ちました。
わたしを束縛するものは何もありませんでした。
普通、こういった家庭では許嫁が決められていたりもするものですが、はっきり言ってしまえばわたしの家はそんな政略結婚をしなくても安定し過ぎているのです。
そういう訳で、わたしには恋愛の自由を与えられ、将来も自由で。まあ言ってしまえばお嬢様がやるには過激なFPSなんかもやっている訳です。
あらゆる自由があるわたしは、自由に恋愛をしました。
始まりは本当に幼い恋心でしたが、高校生となった今ではそれを完璧に自覚していています。
愛する彼は誰よりも強くて、そして誰よりも優しい人。
わたしが出会えたのは本当に奇跡のような、素晴らしい男の子です。
『タツ君、五連続でチャンピオンになりましたよ。褒めてください』
彼に、そんなメッセージを送ってみます。彼――天井龍也君は、FPSの分野には全く明るくないので、わたしが言っていることの意味はよくわからないでしょう。それでも。
『おめでとう。お前なら十連ぐらいいけるんじゃないか?』
よくわからなくても、褒めてくれて。しかもそれだけじゃなく、新たな目標を提示してくれました。
『頑張ってみます。ユキちゃんと組めたら間違いなく達成できると思うんですけどね』
ユキちゃんとは、彼の妹さん。小雪ちゃんのことです。
『あいつとは一緒にやらないのか?』
『一応、元師匠ですよ。わたしの。でも、最近はあまりやってくれなくて。いわく、わたしの方が上手くなってしまうのが怖いとか』
『ちっちゃいやつだな……』
『でも、その気持ちもわかりますよ。後輩に追い抜かされるっていうのは面白くないですからね』
ゲームをそこまでやらないタツ君と話す時のゲームは、ほんのきっかけ。
途中からはそれから発展させた、関係のない話題となっていきます。
『それはわかる。俺もさ、剣道長いだろ?けど、中学から始めたやつがすごい筋がよくてな。女子なんだけどこれが強いんだ』
『タツ君はその子に負けてしまったのですか?』
『いや、今のところは勝ててる。けど、数年先はわからないかもな。技術では俺がまだ勝ってるけど、熱意……いや、気迫がすごいんだ。それでいて、しっかり剣道を楽しんでる。……あいつの剣道を見て、俺も改めて剣道を楽しめてるからいいんだけどさ』
『いいライバル、ですね』
『本当にな』
ちなみにですが、タツ君が別の女性の話をしても、ヤキモチを焼くようなことはしません。
だって、タツ君が異性といい感じになるなんてありえないとわかっているのですから。
タツ君は鈍感ですし、肝心な時ヘタレですし、それに何よりも。
『明日辺り、お家にお邪魔してもいいですか?』
『ああ、大丈夫だけど』
『ありがとうございます。では、わたしのやっているゲーム、オススメさせてもらいますね。三人でひとつのチームを作るゲームなので、なんならわたし、タツ君、ユキちゃんで組めますね!』
『いや、確実に俺が戦犯かますだろ』
『キャリーしてあげますよ~』
『それじゃ俺に成長にならないだろ……』
そんなに乗り気じゃないはずなのに、しっかり真面目で。
そんな人だからこそ、わたしはこの人が好きなのだと思います。
「……タツ君、わたし」
いつしかメッセージのやりとりも途絶えています。本当に気のおけない関係だからこそ、明確な「終わり」はなくて、どっちかがやめたくなったらやめて。だからといってマナー違反だとか、そんな細かいことを気にする必要なんてなくて。そんな空気感が心地いい。
そう思いながらわたしは、それが当然のことであるように服をはだけさせていました。
それから、スカートの中に手を入れて、繊細な細工を愛でるように自らの性器に指を這わせます。
「んんっ……!はっ、あぁぁっ……!」
興奮のあまりに上がる体温。むずがゆくなってくる股間と、切なくなる乳首。
わたしはクリトリスと膣口をつまびくように刺激して、それから、胸をしっかりと掴むように刺激しました。
自分でも自慢に思っている豊乳に自らの指が沈み込んでいき、手のひらが乳頭に触れます。……それが心地いい。
「あっ、あっ、あぁぁっ……!タツ、くんっ……!!」
わたしは、ふと思います。
タツ君もわたしをオカズにして。わたしとエッチするのを想像して、オナニーしていたりするのでしょうか。
わたしが彼の剛直をイメージしながら、膣口をいじるように……わたしの中に挿れることを想像して、自らのモノを手で締め付けているのでしょうか?
完全な想像、妄想でしかないのに、彼の痴態を想像して……申し訳ない気持ちがするのに、それで興奮してより自慰に熱が入っていくわたしがいます。
いけないわたしを自覚して。だけど、それが背徳的で、ゾクゾクして……気持ちよくて。
「あっ、あっ、あぁぁんっ!イッ、くっ……!」
くちゅくちゅ、ぐちゅぐちゅっ……いけない水音が強く響きます。
感情のままにいじっていたせいで、パンツがぐっしょり濡れているのに、それにお構いなしでもっといじって……わたしは、性感に溺れていきました。
「タツ、くんっ……!イき、ますっ……!イッ、ふぁああああんっ!!」
体の奥底から湧き上がる熱。愛液。その全てを溢れさせて、わたしは蕩けて……夜が、更けていきました。