こどもの日

 今日もいつものように、桐と悠の二人は自宅でテレビを見ながら過ごしていた。
 急に暑くなり出したため、こたつ布団をしまい、代わりにエアコンを付け始める。
 ちなみに、そういった家具や家電の管理は全て桐がしていた。
「ふと思ったんだけどさ、桐」
「うむ、どうした?」
 そして、お笑い番組を見ていて、お腹を抱えて笑っていた桐を見て、悠がふと口にする。
「桐ってすごい長い時間を生きてるのに、今のお笑いでちゃんと笑えたりするんだなーって思ってさ。笑いのツボとか、違うのかな、とか思ってたから」
「んー?まあ、確かに感覚の違いがあることはあるかもしれんなぁ。理解できないタイプの笑いがあるのは確かじゃ。しかし、人が楽しい、おかしい、と感じる感覚というのは普遍的なものと思うぞ。……後、レディに暗に年寄りと言うでない。自覚していることじゃが、それなりに傷つくぞ。マイナス5点じゃ」
「ご、ごめん。…………何の減点なんだろう」
 もちろん、桐も本気で怒ってる訳ではなく、日々の戯れの一環だ。彼女の笑い顔でわかる。
「ところで、今日はこどもの日じゃったな。という訳で、妾からプレゼントがあるぞ!」
「え、ええっ。柏餅とかじゃなくて、プレゼント?」
「柏餅やちまきを自作してもよかったんじゃがな、今回はあえて、食べてなくなってしまう物より、長く使ってもらえるものを選んでみた!という訳で、これじゃ」
 そう言って手渡されたのは、男性向けのシンプルなラッピングシートに包まれた小包みだった。
「ありがとう。開けていいかな?」
「もちろん。そもそも、そういうことを言うのは外でプレゼントをもらった時じゃろう?自宅の他でどこで開けようと言うのじゃ」
「そ、それは……まあ、贈り主の見えない所とか?」
「妾は悠の喜ぶ顔が見たいのじゃ。隠れて喜ぶのは意地悪というものじゃぞ?」
「そっか。そうだな」
 苦笑いしながら包みを解く。すると現れたのは、ミニタオルハンカチと、普通のハンカチのセットだった。隅には「K.Y」という刺繍もある。
「空気読め……?」
「ほ、本気で言っているのではないだろうな!?」
「うん、冗談だよ」
「そ、そうか……ならば安心じゃ……」
 珍しく本気で焦っていた桐を見て、タチの悪い冗談だったか、とすぐに正直に言う悠。
 他でもない、この刺繍は河合悠。彼のイニシャルだろう。
「洗濯をしていてな、ハンカチがほつれてきていることに気付いたから、買ってきたのじゃ。イニシャルの刺繍ぐらい、妾が自力でしてもよかったのじゃが、サービスをやっていると言うし、妾がやって失敗してはいけないからの、全てお店に頼んだ」
「……ありがとう、桐。すごく嬉しいよ」
「ふふん、じゃろうじゃろう!ちなみに、ほれ。妾も同じブランドで自分のを買ったのじゃ!」
 嬉しそうに、可愛らしいパルテルピンクのタオルハンカチを見せる桐。そこには「K.K」のイニシャルが刺繍してあった。
「可愛い桐……」
「河合桐じゃ!わざと言っておるじゃろう!」
「うん、わざと」
「まったく……妾をからかって楽しむとは、ずいぶんと偉くなったものじゃな~?」
「ご、ごめんて!……なんかさ、すごく嬉しいんだけど、照れくさいっていうか……」
「ほう?」
 意地悪そうに、顔を背けようとする悠の顔を覗き込む桐。
「なんか、ハンカチってさ……恋人からのプレゼントの定番、みたいなイメージあったから。それを桐にもらえて、ちょっと恥ずかしくて……」
「ふふっ、そうかそうか。まあ、悠がそう思うのであれば、恋人からのプレゼントの気分で受け取ってくれてもいいんじゃぞ?まあ、同じ苗字を刺繍してもらっているから、恋人というよりは夫婦かもしれんがな。ふふっ」
 恥ずかしがる悠に対し、意地悪にそう言って微笑む桐。
 悠は「うぅっ……」と更に恥ずかしがっていたが、すぐ近くに桐の顔があることに気付くと、その頭の上に手を置いた。
「ふぁっ!?な、なんじゃ!?」
「……いや、まさかこんないいプレゼントをもらえると思ってなくて……お返しも何もできないから、頭を撫でようかなって……」
「こ、これがお返しになる訳がなかろう!今日は妾がこどもである悠に贈り物をしたのじゃ……しかし、これでは妾がこどものようではないか!」


「いやぁ、でもさ……」
「うぅーっ……あ、頭を撫でるぐらいなら、ほれ!母の肩でも揉まんか!もちろん、優しくじゃぞ?」
「ああ、わかったよ。……いつもありがとう、母さん。母の日にはちゃんとお返しのプレゼントするから」
「う、うむっ……」
 今度は桐が顔を真っ赤にして、言葉を失ってしまっていた。