新しい家族

「おー、日本に来るのも久し振りー!前に来たのは何時代だっけ……侍に会いたくて来たんだけど、もうその時代は過ぎちゃってたんだよねー」
 エルシアは目を爛々と輝かせながら日本の地に降り立った。
 吸血鬼であり不老の存在である彼女は、正規の戸籍やパスポートは持っていない。しかし、この世界には彼女の眷属たる吸血鬼がたくさんいて、彼らの多くは社会の有力なポストに収まっているため、その力を借りることにより仮の身分やパスポートを手に入れることは容易。そのため、かなり自由に外国にも渡航できるのだ。
「どれぐらいこっちにいるかはまだ決めてないけど、とりあえずはいい感じの住むところが欲しいかな?こっちの子たちの家にお邪魔してもい・い・け・ど~どうせなら~」
 エルシアは笑い、夜の闇に紛れるように駆け出した。その姿が完全に闇の中に潜り込むと、音もなく軽快に走り出す。
「いい感じに疲れた現代人、発見!まだ学生さんかな?私に血を献上する栄誉を与えようではないかー!」
 そう言ってにんまり笑うと、目を付けた男性の後をつける。昼間はともかく、夜のエルシアは元気いっぱいであり、たった二十年ほどしか生きていない人間の尾行なんて難しいことの内に入らない。
 そして、彼の家の前に来ると、目の前に飛び出した。
「こんばんは。お兄さん!」
「うわっ!?」
 目の前に現れたエルシアに驚きながらも、目を奪われる青年。
 全身真っ黒なゴスロリ風のドレスに身を包んだ、ぱっと見では十代中頃に見える少女。顔立ちは人形のように整い、白い肌はいっそ不気味なほどに透き通るよう。元気よく開いた口には、犬歯が光って見えた。
 それに何よりも目を惹かれるのは……ドレスの上からでもよくわかる、小柄な体とは不釣り合いな、はち切れんばかりの豊乳。この凶悪なほどの胸部の膨らみが、彼女をただの可愛らしい少女ではなく、肉感的で蠱惑的な魔性の女に見せていた。
「ね、お兄さんって学生さん?大学生かな?」
「そ、そうだけど……君は?」
「私はエルシア。海外から来たんだけど、住む家がないんだ。だから、お兄さんの家に住んでいいかな?私のお世話をしてくれたら……そうだなぁ」
 エルシアは笑いながら、それがステーキであれば、食べるのに苦労するほどぶ厚い封筒を取り出した。軽く中を見せると、中には一万円札が何十枚と詰まっている。
「ひと月にこれだけ、あげるね」
「っ!?す、すごい大金じゃないか。君ってどういう……」
「どうかな?」
 純粋な目で青年の顔を覗き込むエルシア。その無邪気だが、どこか威圧感のある表情は、それ以上の質問も、答えを待たすことも許さない、そんな風格がある。
 青年は戸惑いながらも、エルシアの顔を見て。……胸を見て。また顔を見て。後頭部に手をやった。
「俺でいいなら……」
「やった。ありがとう!じゃあ、お兄さんのお家に入らせてもらうね!」
「あ、ああ。どうぞ」
「ありがとう!大好きだよ、お兄さん!」
「うわぁっ!?」
 突然、エルシアは飛び跳ねて青年に抱きつく。
 むにゅぅっ、と爆乳がまるで吸い付くように押し付けられ、それだけで青年は卒倒してしまいそうになってしまう。
 こんなに胸の大きな女性に出会ったことはもちろん、それを押し当てられたこともない。彼は今まで女性に縁がなかった全くの童貞であり、初めて触れ合った家族以外の女性がエルシアということになった。
『これからいっぱい、楽しもうね』
 抱きついたまま、彼女はそうささやく。その息多めの声に、青年はゾクゾクとした興奮を覚えてしまっていた。

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